CBSにおける診断と治療~発達障害との関連性について~
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大脳皮質基底核症候群(CBS)における診断と治療
~発達障害との関連性について~
医療法人社団 嘉正園田会
東京メモリークリニック蒲田
園田 康博
・多くの症例にパーキンソン症状を認める
多くの症例の方々が外来に来られますけれども、私は神経内科医ですのでパーキンソン症状をいかにピックアップするか日々トレーニングしてきました。外来で患者さんの所見を結構細かくとっていくと、パーキンソン症状を持っている方がとても多いことに気づきます。もの忘れが主訴で、それが軽いもの忘れであっても、軽度のパーキンソン症状が合併していることが多いので「何でだろう?」と思っていました。
また、アルツハイマー病の方に失行のテストを行っているのですが、その時にキツネの形などの手指の模倣をしてもらうと反対側の手指が同時に動くという、後で説明しますが、いわゆる「鏡像運動」が出てくることに気づいたのが始まりでした。
・パーキンソン症状
よく見られるパーキンソン症状としては、歩行時の左右差のある手振りの減少や姿勢保持障害、固縮などがあります。
固縮については、いかに誘発してピックアップするかが私どもの役目だと思っています。
monotonousは、話している言葉のトーンが全体的に抑揚がなく単調になっている状態のことです。
masked faceは仮面様顔貌ともいい、仮面のように表情が変わらない、表情の変化が乏しい状態のことです。
oily faceは脂漏性顔貌ともいい、顔が脂でテカテカしています。
Myerson's sign(マイヤーソン徴候)は、教科書的には検者が眉間を指でトントンと叩いて刺激すると眼瞼が閉じる徴候のことですが、眼瞼が閉じなくても眼輪筋の収縮が見られたら私どもは陽性としています。
瞬目減少は瞬きが少なくなっている状態です。
左右差のあるedema(浮腫)については、患者さんが座っている時に大腿の上に置いた手を見るだけで分かります。左右差のある非常に軽い手の浮腫に気づくことが少なくありません。
左右差のあるあかぎれは、あかぎれまでなっているのは少ないですが、パーキンソン症状があると自律神経障害を起こすので結構早い段階であかぎれやしもやけが出てきて、しかも左右差があることがあります。左右の手で皮膚の色が変わっていたり、両手を触ってみると片方の手のひらだけザラザラしていれば、パーキンソン症状があるかなと疑います。
ターンの遅延は、実際に歩いてもらい、方向転換してもらうと分かります。姿勢保持障害などがあってバランスが悪いとどうしてもターンがゆっくりになります。
手振り減少の症例動画紹介:歩かせると手振りが減少していて、しかも左右差があります。
姿勢保持障害の症例動画紹介:後方突進、前方突進、立ち直り反応の低下があるのが分かりますが、立位でフェイントをかけて後方からもしくは前方から身体を押すと出やすいです。
固縮誘発試験の症例動画紹介:検者が両手の手関節を他動的に動かすことで固縮の有無や程度を判別しやすいと思います。まず検者が患者さんと対面で座り、左右の手を交差させて握手しながら、検者が患者さんの手関節を他動的に掌背屈させると固縮の有無や左右差を感じることができます。
固縮の増強法としては、患者さんに「1、2、1、2」と声を出してもらいながら一方の手を伸ばしたまま肩から上下に動かしてもらい、その時に検者は他方の手関節を他動的に掌背屈させて固縮の有無を確認するというものです。手を上下に動かすのを途中で止めてもらうと固縮の抵抗感が減弱、消失することからも確認できます。
この方法は昭和大学の河村先生が平山恵三先生から教わったものを私が教えてもらったもので、「1、2、1、2」と声を出させるのは私がアレンジしたものです。これは、私が千葉の亀田総合病院に勤務していた時にハンチントン病の兄弟がいて、数字を言わせると不随意運動(ヒョレア)が誘発されやすいことに気づいてそれを応用したものですが、結構有用な検査法になっています。是非試していただければと思います。
・AD診断基準 NINCDS-ADRDA基準
これはADの診断基準で最近出されたものですが、診断項目の1つに「動作の障害(失行)」が含まれていますので、診察時にはテストとして肢節運動失行、観念運動失行などを確認するために手指の模倣運動をしてもらってます。
先ほどもお話ししました通り、模倣運動をしてもらった時に反対側の手指が動いてしまうことがあるのですが、それは「鏡像運動」といわれています。
・意味性認知症(SD)の臨床診断 特徴:臨床プロフィール
ちなみに意味性認知症(SD)の臨床診断の特徴:臨床プロフィールの身体所見の中に「無動、筋強剛、振戦」が含まれていますが、「無動、筋強剛、振戦」とはパーキンソン症状のことです。SDでは結構早期から軽いパーキンソン症状を出すことが少なくありません。
・前頭側頭型認知症(FTD)の臨床診断の特徴:臨床プロフィール
また前頭側頭型認知症(FTD)の臨床診断の特徴:臨床プロフィールの身体所見の中にも「無動、筋強剛、振戦」が含まれており、パーキンソン症状が出ることを示しています。
・鏡像運動(mirror movement : MM)
鏡像運動について平山先生の神経症候学改訂第2版では、次のように記載されています。
一方の上肢や手の動作をすると反対側の同部が対照的に、不随意に動く現象である。
平泳ぎの真似はできるが、クロールを真似るとバタフライに切り替わったり、じゃんけんで右手に「ぐー」を作ると左手も「ぐー」を作り、右手を「ちょき」にすると、左手も「ちょき」となる。
また植木先生は「パーキンソン病と運動異常」の中で鏡像運動について次のように書かれています。
鏡像運動は、一側の随意運動に類似した対側相同筋の意図しない協同運動であり、特に上肢の遠位筋に認められることが多い。
鏡像運動は、先天性疾患(クリッペル・フェール症候群、カルマン症候群など)や後天性疾患(パーキンソン病、大脳皮質基底核変性症などの変性疾患)でみられる。
鏡像運動は健常幼児での手の運動機能の発達段階で発現してくる(生後約1年)。
これは一方の手が運動をするときに、他側の手への抑制がとれるためと理解されている。
これには前頭葉内側面の補足運動野の発達が関与していると考えられている。
病態生理としては、①手の随意運動と対側の一側一次運動野のみが活性化される機序と、②手の一側の随意運動に対して、意図せずに両側一次運動野が活性化する機序、の2つが考えられる。
定型発達なら12歳までに消失する。
ちなみにバビンスキーやトレムナーといった原始反射などの錐体路徴候も同じように乳幼児期に出てきて12歳頃までに消失します。したがって、それ以降鏡像運動が出てくるというのは原始反射同様に異常なんですね。
・鏡像運動の病態生理
鏡像運動の病態生理についてですが、出現する機序としてAからDの4つのパターンが考えられています。
A:交叉性皮質脊髄路の分枝によるもの。
B:非交叉性皮質脊髄路については、錐体路というのは100%対側に行くのではなくて、正常だと大体10%程度は同側に行きますが、この同側に行く経路が強い場合に出るもの。
C:半球間抑制の障害によるものと、D:皮質内抑制の障害によるものがありますが、これらはパーキンソン病やCBDなどで見られます。
鏡像運動の評価法もあり、Woodsが1978年にNeurologyで0から4の5段階の評価尺度を発表しています。
・大脳皮質基底核変性症(CBD)の疾患概念の確立
次に大脳皮質基底核変性症(CBD)の疾患概念の確立について確認します。
1968年、Rebeizらは、進行性の左右非対称な筋強剛と失行に加え、皮質性感覚障害、ミオクローヌス、alien limb sign、ジストニアをみとめる3症例を報告しましたが、この時には認知機能はさほど障害されないと報告されていました。
その後、CBDは(1)左右非対称、(2)大脳皮質症状(失行、皮質性感覚障害、alien limb sign、ミオクローヌスなど)、(3)錐体外路徴候(L-dopa不応性の筋強剛、無動、ジストニア)を臨床的特徴として、(1)大脳皮質、線条体、黒質の神経細胞脱落とグリオーシス、 (2)大脳皮質におけるballooned neuron、(3)神経細胞、アストロサイト、オリゴデンドログリアにおける異常タウ蛋白の蓄積を病理学的特徴とする、という疾患概念が定着しました。
・大脳皮質基底核症候群(corticobasal syndrome ; CBS)
さらにその後、剖検例の集積により、CBDの臨床像はきわめて多彩であることが分かってきました。
そして2003年にGrooveらが大脳皮質基底核症候群(CBS)という概念を提唱するようになりましたが、CBSの背景病理としてはCBDのほか、進行性核上性麻痺(PSP)やアルツハイマー病(AD)など多彩であることが分かってきたため、現在は病理診断名としてCBD、臨床診断名としてcorticobasal syndrome(CBS)が用いられるようになっています。
CBSの臨床診断基準としてはMayo基準や改訂Cambridge基準が用いられていますが、最近では剖検にて診断が確定したCBD症例の症候の解析結果に基づき作成したCBDの臨床診断基準(Armstrongら.2013)も提唱されてます。
・CBSの診断基準 Mayo基準
Mayo基準はスライドの通りですが、大脳皮質障害として記載されているような症状のうち少なくとも1つを認め、錐体外路徴候としてはレボドパによる明らかで持続的な効果を認めないという記載があります。
ただこの基CBSの診断基準準の中では認知機能に関しては全く触れられていません。
・CBSの診断基準 改訂Cambridge基準
改訂Cambridge基準の場合は、同じようにL-dopa治療の持続的効果がないというのがあって、運動障害と皮質運動感覚障害に加えて、ここでは認知機能障害が入れられています。
・解剖報告一覧 CBSにおけるCBD、PSP、ADの頻度
これは下畑先生がCBS症例の解剖報告をまとめたものですが、CBDが41%、PSPが18%、ADが21%であったという結果というものです。
ただし、CBSの定義は論文により異なることに注意が必要であるということですね。
CBSの中にADも結構含まれているということが分かります。
・CBDの病理結果が多彩
これは饗場先生がまとめたものですが、臨床診断されたCBSの背景病理としてCBD(大脳皮質基底核変性症)、PSP(進行性核上性麻痺)、AD(アルツハイマー病)、FTLD(前頭側頭葉変性症)、ピック病、CJD(クロイツフェルト・ヤコブ病)、PD(パーキンソン病)そしてDLB(レビー小体型認知症)などが含まれていて、とても多彩であることが分かります。
またCBDとPSPとADはタウオパチーであることを示しています。
逆に病理診断されたCBDの臨床像としてはPSP、CBS、アルツハイマー型認知症、前頭側頭型認知症、PD、後頭葉皮質萎縮症、進行性非流暢性失語が含まれています。
・CBDS
CBDSというのは有名なPick Complexを提唱したKerteszが1998年に初めてPick Complexに言及した原著「PICK’S DISEASE AND PICK COMPLEX」の中で、Cortico degenerationの下にsyndromeを付けてCBDSという疾患名を使用しています。
・Pick complex(Kertesz,1988)の中身
これは池田先生がKerteszが提唱したPick complexについてまとめたものですが、ここにはCBSは入っていません。
・CBS背景病理の鑑別の進め方
これは下畑先生が「CBSの臨床」というレポートの中で出されているCBS背景病理の鑑別の進め方ですが、ここに書かれているように、例えば「CBS-CBD」としてしまうと、基本的にこれはもう病理診断がついてしまいましたよということになります。
そこで臨床場面ではどうしたらいいのか考えたんですけれども、「CBS-CBD疑い」と表現して仮診断とすればいいのではないかと考え、そのようにしています。
各疾患の鑑別のポイントについて触れていきますと、CBS-CBDの場合は、遂行能力障害、語彙の流暢性低下、速い脳萎縮、脳梁前部の萎縮(これはMRIの矢状断でよく分かります)、あとはSPECTなどで前頭・側頭の血流低下がある、などが挙げられています。
CBS-PSPの場合は、発症早期からの垂直方向サッケードの遅延や核上性眼筋麻痺、転倒しやすいということが挙げられています。
核上性眼筋麻痺についてですが、PSPの場合は上下転の障害ですけれども、CBDの場合は上転制限はあるけれども下転はあまり障害されないことが多いといえます。
それからCBS-FTLDは記載されている通りです。
CBS-ADの場合は、やはりまずものを忘れるということで早期からのエピソード記憶障害が挙げられています、またミオクローヌスがよく出ると言われています。そして口腔の失行、視力空間傷害、SPECTで頭頂葉の血流低下があると言われています。
・CBDの診断基準~Armstrongら2013より~
これはArmstrongらのCBDの診断基準で、この「CBDの臨床表現型サブタイプ」という中にCBSがあってProbable CBSとPossible CBSに分けて基準が示されています。
Probable CBSはa. 四肢の筋強剛ないし無動、b. 四肢ジストニア、c. 四肢ミオクローヌスのうち2つが非対称性で、加えてd. 口頬失行ないし四肢失行、e.皮質性感覚障害、f. alien limb phenomenonのうち2つあったら診断できるとしています。
Possible CBSは対称性でもよく、a. 四肢の筋強剛ないし無動、b. 四肢ジストニア、c. 四肢ミオクローヌスのうち1つと、加えてd. 口頬失行ないし四肢失行,e.皮質性感覚障害、f. alien limb phenomenonのうち1つあったら診断できるとしています。
ここではL-dopa治療のことについては全く触れられていません。
・病理診断が確定した症例群における生前のMRI上の脳萎縮の分布(Leeらの報告のまとめ)
これは篠遠先生が報告された、病理診断が確定した症例群における生前のMRI上の脳萎縮の分布(Leeらの報告のまとめ)ですが、CBS-ADではSMAという中心溝近傍の運動補足野と側頭皮質、頭頂皮質、線条体が委縮する傾向があるとされています。
CBS-CBDでは前頭前野と中心溝近傍、線条体の萎縮傾向があり、頭頂皮質については触れられていません。
CBS-PSPでは前頭前野、中心溝近傍、線条体に加えてやはり脳幹が委縮する傾向があるということです。
FTDは前頭前野、中心溝近傍、線条体が委縮しやすいとなっています。
線条体が委縮しやすいということなのでパーキンソン症状を出しやすいのかなと思います。
・CBSの頭部MRI
これはCBS症例の頭部MRIについてですが、これは典型的だと思います。
左側の前頭葉、側頭葉そして頭頂葉が優位に委縮し、脳室の大きさに左右差が出ており、明らかに左側で大きくなっています。
・CBSのVSRAD解析 VBM
これはCBS症例のVSRADでVBM解析をした画像です。
VSRADの結果についてくるものですが、このように萎縮部位に色がついて左右差を示してくれるので、病態を把握していく上でとても有益です。
・CBSチェックリスト
これは私の私見ですが、CBSのチェックリストを作ってみました。全くエビデンスはありませんが、患者さんを色々と診ていく中で作ったものです。
①失行があるとともに明らかな鏡像運動が出る。
②パーキンソン症状がある。
①と②はほとんどの症例で認められます。その他に、
③意識の変容があり、ボーっとしている時とはっきりしている時との波がある。
④言葉の理解や発語がスムースでない。
⑤睡眠障害(レム睡眠行動異常・睡眠時無呼吸症候群)がある。
レム睡眠行動異常は最近トピックスになっていますけれども、αシヌクレイノパチーの疾患の前駆症状として結構な割合で出てくると言われています。睡眠時無呼吸症候群も同様です。
⑥自律神経症状がある(左右差のあるむくみ)
自律神経症状として便秘も含めて左右差のあるむくみなどが出てきます。
⑦前頭葉症状がある
前頭葉症状も出てくるので、やはりCBSもPick complexに含まれているのだと思います。
⑧原因不明の手足の痛み(特に左右差あり)、しびれ、レストレッグ症候群(RLS)あるいはふらつき感がある
原因不明の手足の痛みで特に左右差あるものやしびれが出てきたり、RLSの方も結構いらっしゃいます。またよく外来で「ふらつくふらつく」という訴えで受診される方もいらっしゃいます。
⑨焦燥感・不安感・うつ症状がある(ドクターショッピングをしている)
また精神的には焦燥感や不安感、うつ症状といった症状が初めに出てくるので、心療内科や精神課に行かれる方が多く、それで治療しても良くならないといった状況で、当院の外来を受診される方も多いです。
⑩物忘れ症状がある
これら以外にも、ミオクローヌスやジストニア、眼球運動障害(核上性注視麻痺:上下転制限)、錐体路徴候(トレムナー反射陽性) 、皮質性感覚障害 、相貌失認なども見られます。
トレムナー反射については外来で必ず所見をとるのですが、私自身反射を出すのが上手くなり、軽い反射だったり強い反射だったりするのを見分けられるようになりました。いずれにしてもトレムナー反射が陽性になる率が高いです。
皮質性感覚障害については2点識別覚や左右の手を同時に刺激して消去現象があるかないかを確認しますが、結構障害されていることが多いです。
相貌失認については有名人の顔の写真を見せても分からないというもので、意味性認知症(SD)を見分けるために検査を行っています。
・「ボーっと」してしまうとは
ボーっとしてしまう原因としては、意識の変容、注意障害、発動性の低下、意欲の低下などが考えられますが、メカニズムとしては視床から前頭葉への神経回路においてブチルコリンエステラーゼ上昇によってアセチルコリンの分解が亢進し、ブチルコリンが上昇するために、ループ機能の低下が引き起こされて症状が起こる可能性が指摘されているのですが、これに関してはリバスチグミンが効果的で、患者さんによってはパッチを貼った瞬間に意識がはっきりするという方もいらっしゃいます。
・REM睡眠行動障害(RBD)
REM睡眠行動障害(RBD)は睡眠時随伴症 (パラソムニア) のひとつで、REM睡眠期に夢を見るというものです。
夢の内容は結構バトルをしていたり、非常に攻撃されたりと不快なものであり、悪夢が多いようです。そのために起きてしまって一緒に寝ている隣のパートナーを殴ったりだとか、あるいは部屋の中を歩き回ってしまい起きたら身体にアザがついているということもあります。
患者さんの中には夜中の3時に必ず起きて台所で食事を作るという方がいらっしゃいました。また毎朝起きるといつも枕元に包丁が置いてあるという方もいらっしゃいました。
さらにRBDはαシヌクレイノパチ一発症の危険因子になりうることと、RBDを合併するαシヌクレノパチーは特徴的な臨床像を呈する可能性があると言われています。経験上、CBSの半分以上にRBDがあるといえます。
また、RBDはその他の認知症の前駆症状である可能性があり、RBD発症5年後に35%、10年後には73%、14年後には92%でαシヌクレノパチーかその他の認知症を発症する可能性が高いということが最近報告されています。したがってRBDは非常に重要な症状だと思います。
・CBSをきたすそれぞれの疾患をCBDと鑑別するポイント
CBSをきたすそれぞれの疾患をCBDと鑑別するポイントについてはスライドに書かれている通りです。
・症例紹介① 70代女性
ここで症例を1つ紹介したいと思います。
70代の女性で主訴は、物忘れと歩行障害で来院されました。
本人は4人兄弟の末っ子で姉妹にパーキンソン病と認知症の方がいるが、病状等ははっきり分からないということでした。
初め、入室時に突進現象がありました。
外回りで小学校の清掃の仕事をやっていた1年前頃から、つま先が地面に突っかかってよく転ぶようになり、階段は特に下りが怖いので必ず手すりを使うようにしているとのことでした。また、もの忘れも出てきて、物をどこに置いたか忘れてしまうようになったが、夜は夢を見たり寝言を言ったりすることもなく、幻覚などもないとのことでした。
診察で所見をとると、肢節運動失行が認められ、また環境依存性の症状が出ており被刺激性行動も認められました。失行のテストをしている時には両側とも軽度の鏡像運動が出現しました。
ことわざテストでは「猫に?」の後に「かつおぶし」と回答し、「猿も?」のことわざは答えられましたが、「猿も木から落ちる」の意味については「分かりません」ということでした。「猫に?」の後に「かつおぶし」と答える方は結構多いですね。
「アフリカに住む首の長い動物は?」の質問に対しても「分かりません」ということでした。
これらのことから語義的な失語の存在が疑われました。
両下肢とも腱反射が亢進していて、トレムナー徴候も両側陽性。
固縮は左側で強く、身体が左に傾いており、左斜め徴候が認められました。
眼球運動は両側とも軽度上転制限があり、マイヤーソン徴候も陽性でした。
歩行はすり足で前方突進があり、両手を振らなくて、姿勢反射障害も強く障害されている。
改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は16点で見当識、遅延再生、物品記銘、野菜想起で減点がありました。
これがMRI画像です。
皆さんはVSRADの矢状断の画像はあまり確認されてないと思うのですが、この中には160スライスあり、実はすごい情報量が含まれています。特に矢状断は、頭頂葉や前頭葉の委縮の有無や脳梁の厚さを確認するには非常に有用です。報告書だけではあまり分からないので、VSRADにくっついてくる元画像を全部見ていくととても参考になります。
この矢状断と冠状断の画像を見ると前頭葉、頭頂葉、側頭葉が委縮していますが、海馬は比較的保たれていることが分かりました。
また、この水平断のFLAIR画像では、前頭葉の萎縮とともに、両側基底核が少しlowになっているのが分かります。
両側基底核がlowになっているのはカルシウムが沈着しているからではないかと疑い、CT検査を追加オーダーしました。
当院では通常MRI検査しかオーダーしないので、CTを撮らないというある意味デメリットもあるのですが、この方のCT画像では小脳歯状核と両側淡蒼球の石灰化、両側尾状核頭部の非常に淡い石灰化像が認められました。
一応この方の診断としては「CBS-DNTC (石灰化を伴うび漫性神経原線維変化病)疑い」としました。
治療についてはリバスチグミン4.5mgを隔日で、アマンタジン2mgを朝食後、クロルプロマジン2mgとチアプリド1mgと抑肝散加陳皮半夏2.5gを就寝前に加えました。
チアプリドはちょっと怒りっぽいので1mg加え、寝つきも悪いので抑肝散加陳皮半夏を1包加えています。
その後の経過ですけれども、この処方で受診3回目にはパーキンソン症状が大分改善し、ADLは元に戻りました。また怒りっぽさもなくなりました。
・CBSの治療
次にCBSの治療についてです。
本当のPD、FTD、AD、DLBとの鑑別が難しい場合もありますが妄想性障害に対する投薬は常用量で良いと思います。
DLBは薬剤過敏性があるので有名ですが、DLB同様CBSにも薬剤科敏性がありますので常用量よりはるかに少ない量で効きます。
ここに書かれているのが投薬の基本骨格なんですが、基本薬剤としてまずクロルプロマジン(CPZ)を眠前に2mgからの量で使用します。
これらの他に症状に合わせてリバスチグミンは4.5mg から、ガランタミンは2mgから開始します。
パーキンソン症状が出ている場合は、実は抗パ剤を使用しなくてもCPZを投与して前頭葉の働きを整えたり、または例えばリバスチグミンで前頭葉の血流を上げることによって軽いパーキンソン症状であれば落ち着いてくることが多いです。
これらの処方でパーキンソン症状の改善がいまひとつという場合には、アマンタジンを2mgから開始し、さらにという場合は、レボドパを6.25mg (ドパコール®L50×0.125錠)からの量で追加しておくと症状が良くなります。
RBDに対しては、皆さんご存じだと思いますが抑肝散や抑肝散加陳皮半夏を、もしくはラメルテオンを4mgから、またはニトラゼパムを1mg から、クロナゼパムを0.1mg から開始して調節していくとほぼ100%コントロールできると思います。
・自験例;発達障害のある家系
さて、これは今回の講演で発達障害に触れるきっかけを作ってくれたDLBの患者さんの家系図です。
実は本人のお孫さんが一生懸命インターネットで調べて、お孫さんの母親と一緒に本人を当院へ連れてきてくれたのですが、実はお孫さんもお孫さんの母親も発達障害でした。
その後DLBのおばあちゃんはすごく良くなっていったのですが、お孫さんが「実は先生、お父さんがちょっと変で困っちゃって…もう大変なんです」ということで、よくよくお父さんの様子を聞くとレンタルDVD屋さんに毎日毎日決まった時間にエロビデオを借りに行って、それを止めさせようとすると激怒して大変だということでした。
「もう性格も変わっちゃって」ということだったので、外来に連れてきてもらって色々検査したら、前頭葉が委縮してしまっておりFTDの診断になりました。
その後治療を開始して、今はもう普通に生活されて非常に感謝されているんですけれども、つい先日娘さんから「実はお父さん11人兄弟でみんな変なんですよ。子供たちも変で、何人かは発達障害と診断されているんですよ」と言うので、よくよく話を聞いて作ったのがこの家系図です。
・発達障害と認知症
それ以来「発達障害と認知症って何か関係あるのかな」と思って調べてみたんですね。
そうしたら中央大学の神経心理学研究室の緑川先生が発達障害と認知症というレポートを発表していました。
レポートではPDとDLBの人々に昔を振り返ってもらうと発達障害の一つである注意欠陥・多動性障害(ADHD)であった率が他の認知症に比較して有意に高く、また原発性進行性失語症の人々を調査すると本人やその家族に学習障害だった人々が他の認知症に比較して有意に高かったという報告がなされています。
また、これまで見過ごされてきたことですが、臨床的に前頭側頭型認知症と診断された患者の中には、それまで診断されることがなかった自閉症スペクトラム障害の人がいるのではないかと考えられていましたが、私たちの研究チームは、アルツハイマー病の人々と比べて、臨床的に前頭側頭型認知症と診断された人の中には、発症前に自閉症スペクトラム障害だった可能性が高いことを改めて確認しました、とされています。
この報告でPDやDLBの人の中にはADHDが多いというのを読んで、初めは「あれっ?」と思ったんですが、よくよく外来で患者さんを観察すると「あの人もそうだ。あの人も、あの人もだ」という風に気付いて、なおかつ家族的な発症が多いので家族も診てみると「えっ!?結構多いんだ」という風に気づかされたというのが実際のところです。
・発達障害
それで発達障害について勉強しました。
あとで発達障害のスペシャリストが講演される予定なので恥ずかしいのですが、発達障害の中には発達性協調運動障害、知的障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉症スペクトル障害(ASD)、学習障害が含まれています。
学習障害の中に読字障害というのがありますが、有名なトム・クルーズがそうですよね。彼は読字障害があっても非常に努力して今の地位を築いたと聞いております。
・DSM-5における自閉症スペクトラム症/障害の診断基準
これはDSM-5における自閉症スペクトラム症/障害の診断基準ですが、これを私なりにまとめてみたのが次のスライドになります。
・ASDの特徴(診断ポイント)
ASDの特徴(診断ポイント)についてですが、まずは社会性ですね。対人関係がどうなのか、対等なパートナーがいるのかどうか。
次にコミュニケーションについてですが、まずノンバーバルの異常として表情が硬い、モノトーンである、しぐさが乏しいといったことがあります。これらは私どもから見るとパーキンソン症状だなと分かります。そういった目で見るとASDの人には軽いパーキンソン症状が合併していることが多いことが分かります。
例えば足を引きずっている人が多いですよね。診察室に入ってくる時に、床に足を擦っている音がするので分かります。
また正常な人から見ると誰が見ても「変だな」と感じると思います。
そしてイマジネーションの欠落が挙げられます。相手の立場に自分を置いて相手の気持ちを想像できるかということですが、相手を思い遣る気持ちが欠けてしまうのです。
さらには感覚過敏もあります。五感のうちどれか1つか2つ過敏になっている場合があります。
視覚過敏というのは、例えば看板を見るとそれに引きつけられてしまって他に注意が行かなくなったり、救急車が来ると「救急車だ」と騒いだりする。
聴覚過敏があると、ちょっとした小さい音でビクンッと驚いたりします。
味覚過敏の例としては、ここには決まった味付けと書いてありますが、お母さんのおにぎりは食べられないが、コンビニのおにぎりだったら食べられるといったことがある。どうしてかというと、お母さんの作るおにぎりはい塩加減が毎回違うが、コンビニのおにぎりは機械で作るので塩加減が一定だからということです。
・DSM-5における注意欠如・多動性障害の診断基準
これはDSM-5における注意欠如・多動性障害の診断基準です。
・ADHDの特徴
ADHDの特徴としては、まず不注意があります。
不注意としては、忘れ物が多く、場の空気が読めない、片づけができない、段取りが悪い、途中で挫折する、などが挙げられます。
多動性としては、空気が読めない、人の話を聞けない、例えば電話で一方的に話して切ってしまうとかがあったり、落ち着きがなくソワソワしている、例えば人が話をしているのに貧乏ゆすりをしていたりだとか、気が散りやすく集中できない、途中で挫折する、などが挙げられます。
衝動性としては、衝動的な発言が多い、空気が読めず人の話を聞けない、衝動買いが止まらない、些細なことで口論になりやすい、衝動的に大事な判断をしてしまう、段取りが悪い、単純作業が苦手、途中で挫折する、などが挙げられます。
・AQ(自閉症スペクトラム指数)チェックリスト
これはAQ(自閉症スペクトラム指数)チェックリストです。
ここには50項目あり、設問ごとに「そうである」「どちらかといえばそうである」「どちらかといえばちがう」「ちがう」から選択してもらいます。
設問ごとの採点基準にて得点され33点以上で自閉症スペクトラム障害の可能性が高くなるというものです。
・成人期のADHDチェックリスト
これは成人期のADHDチェックリストです。
ここには18項目ありますが、設問ごとに「全くない」「めったにない」「時々」「頻繁」「非常に頻繁」から選択します。
設問1~6で4つ以上基準を超えているとADHDの可能性が考えられ、設問7~18は参考的に使用するというものです。
・大人のADHDと子供のADHDの違い
大人のADHDと子供のADHDの違いについてですが、そもそもADHDは子供の発達障害として定義されたものですが、大人でも子供でもADHDの特徴の本質は変わらないとされています。
また子供のころADHDであった人は、次のような経過をたどるといわれています。
1/3が思春期までに症状がなくなる
1/3が大人になっても症状が残るものの生活に支障はなくなる
1/3が大人になっても症状が残り生活に困難が生じる
大人になってもADHDの特徴は変わらないけれども、環境の変化などによって周りの対応が違ってくるということです。最近では問題なく生活していたのに、壮年期になって発症するという報告例もあるようです。
これは大人のADHDと子供のADHDの違いについて特徴をまとめたものですけれども、「周りからの評価」で大人の場合、忘れ物ばかり、片付けできない、仕事をやりとげられない、周りから非難の目で見られる。子供の頃は見過ごされていた症状が会社勤めや結婚生活などで目立ってくる、となっていますが、結構離婚率が高いみたいですね。一方で、結婚して一緒にうまくやっていける場合は、相手も発達障害の傾向がある場合が多いといわれています。
・ADHDにみられる鏡像運動
これは「ADHDにみられる鏡像運動」ということでNeurologyに出ていた報告ですが、ここではADHDの子供たちに一方の手の指をたたく動作をさせた時に、他方の手の不随意な動きが出てしまう「鏡像運動」が見られ、ADHDの男子はそうでない子供の倍くらい鏡像運動が出現したが、女子では見られなかったことから、ADHDでの抑制機能障害の重要な証拠といえるだろうとされています。
・発達障害と認知症
発達障害と認知症の関連性についてですが、若年認知症ではアルツハイマー病が多いと思うんですけど、実はCBS-AD疑いの人が多いのではないかなと思います。
発達障害で、成人発症のものも含めてみると、ADHD、ASD、LDと認知症はオーバーラップしているのではないかと感じています。
実際の認知症外来では「もともとの性格がさらにひどくなった」、「もともと落ち着きがなくてよくしゃべるんですよ」、「生まれつき物が覚えられないんですよ」、「人の顔が覚えられないんですよ」といった話が、本人や家族によくよく聞いてみると出てくることが非常に多いです。
・認知症スペクトラム
これは私が勝手につけたネーミングですが「認知症スペクトラム」といってもいいのではないかと思っています。
発達障害が認知症とオーバーラップしており、発達障害が認知症様になっていくのか、認知症になっていくのかは分からないですけれども、いずれにせよ生活に困った状態になってしまいます。
ADHDやLDは成長するに従って問題が解消されていくことが多いけれども、ASDはどちらかというと逆で、むしろ問題が深刻になっていくことが多い傾向があるようです。
発達障害傾向の方が歳をとると問題が深刻になったり、認知症的要素が出てきて生活が困難になってしまうというケースが実は多いのではないのかなと思っています。
・発達障害の治療
発達障害の治療についてですが、内山登紀夫,宮岡等先生の「大人の発達障害ってそういうことだったのか」や杉山登志郎先生の「発達障害の薬物療法」などを読むと、はっきりしたエビデンスはないが、多くの専門家が経験的に「薬に非常に過敏な人が多い」と言っていて、他の神経疾患の患者さんより薬の副作用が出やすく、少ない量で効く、と書いてあるんですね。
これを読んでとても驚きました。というのは先ほどもお話ししましたようにCBSに対しては少量の薬で効くのではないかという、私が実践している治療法ととてもマッチングいたからです。
驚くことに杉山先生の本にはラメルテオンの投与量が1mgと書いてあるんですね。私は1/4錠の4mgから使っていたのですが、1mgというのはすごいですよね。
このように極めて少量で調整していくのだということです。
・患者を発達障害タイプ別に分けてみる
この「患者を発達障害タイプ別に分けてみる」で提示しているものは全くの私見です。
発達障害の専門家の方がはるかに優秀だと思いますが、発達障害の方がご高齢になってから診断別に分けて治療していくことが果たして可能なのかどうか分からなかったので、ひとまずタイプ別に分けてしまおうということにしました。
ASDタイプ、ADHDタイプ、ASD+ADHDタイプ、LDタイプ、定型発達タイプを考慮しながら認知症治療を加えていくと良いのではないかと考えました。
・まとめ
まとめですけれども、
①臨床症状からCBSを捉えることで、病理診断を大まかに予測し、それを踏まえて治療に寄与することが可能である。
②CBSは程度の差はあれ、薬剤過敏性があるといってよいので、投薬量は少量でよい。最も過敏性が高いのがCBS-DLBを疑う症例である。
③鏡像運動は発達障害の症例にも認められることから、CBS;発達障害:認知症スペクトラムとして考え、治療の工夫が必要である。
④発達障害(神経発達症群;Neurodevelopmental disorder)の治療とCBSの治療は共通項が多いと考えられ、さらなる知見の積み重ねが必要である。
と考えました。
・結語
結語ですけれども、発達障害を理解し、治療に取り入れることが認知症医療をさらに前進させる大きなヒントになるのではないかと考えます。
以上になります。
ご清聴ありがとうございました。