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幻覚と妄想

レビー小体型認知症の人に見られる特徴的な症状といえば、視覚にまつわるものがあげられます。
幻覚;幻視や見間違いです。また、それに伴う妄想や作話などもしばしば起こってきます。
幻覚とは「対象なき知覚」のことです。つまり対象は存在しないが、はっきりとした感覚が存在するといことです。幻覚には、幻視・幻聴・幻触・幻臭・体感幻覚・幻肢などがあります。レビー小体型認知症の約80%の人に幻視がみられるとされてます。幻視は、本人にはありありとみえています。

動物に関するもの
猫が部屋の隅にいる。
ネズミが壁を這いまわっている。
ヘビが布団のうえにとぐろをまいている。
ご飯の上にふりかけのように黒い小さな虫がいっぱいいる。

人に関するもの
知らない人がいつも2階から覗いている。
死んだお父さんが隣にいる。
ロシアの兵隊が、ベッドの周りをまわっている。
知らない男の人が、ベッドに入ってくる。

環境に関するもの
床が濡れて水溜りができている。
あたりが一面の花畑になっている。
ものが吸い込まれていく。

見えるものはその人によって様々に異なりますが、小動物や虫、人物が一般的で、多くの場合動きを伴います。人が見える場合、相手を特定することもできる場合もあれば、「顔がはっきりしない」「ぼやけけている」「仮面をかぶっているよう」などと表現されることもあります。
色彩もあることやないこともあり、きっかけなく突然現れ、一瞬のことも、数分あるいは数十分と続くことが一般的で、長時間持続していることはありません。
あまりにもリアルに話すため、最初、家族の人の驚きは計りしれません。「あそこにいる」といわないまでも、隙間を覗き込んだり、何かをつまもうとしたり、話しかけたりすることで、周囲の人が気づく場合も多いようです。
アルツハイマー病では、こうした幻視がみられるのは、せん妄のときを覗いて稀で、アルツハイマー病との比較でいえば、レビー小体型認知症では、記憶障害が軽い傾向があるため、幻視の様子を数日たっても正確に語れることがよくあります。

幻視は、日中だけではなく、とくに夕方、黄昏てくる時間から夜にかけて頻回に出現する傾向があります。これは、周囲が暗くなっていくという外的要因のほか、体内時計のバランスが崩れている要因、視覚を含む認知機能の低下という内的要因も関係していると考えられます。
また、幻視とは少し異なりますが、“気配を感じる”といことも少なくありません。これは「実体的意識性」と呼ばれるものですが、「背後に人がいるような気がする」「誰かに見られている感じがする」「目の前を人が通り過ぎた気がする」「時々、眼鏡の縁に人の影がちらつく」などと訴えるような例です。
そのほか、聞こえるはずのないものが聞こえる幻聴や体感幻覚(皮膚の知覚に関する幻覚。例えば「触れられている」「痛い」「熱い」「背中に毛虫が張り付いている」「腕の中にミミズが動き回っている」等)が加わることもあります。

最近経験した例では、80歳代の女性で、「自分の性器を木で誰かが触る」という訴えのあるレビー小体型認知症の方で、投薬で幻覚を消すができました。

その他にも、幻視以外の視覚的な認知障害も伴うことが稀ではありません。そのひとつは、「錯視」です。いわゆる「見間違い」のことで、ゴミが虫に見えたり、丸めてあるシーツを動物と勘違いしたり、壁の模様が人の顔であると見誤ったりします。正常な人でも見間違いは経験しますが、レビー小体型認知症の人では頻度が格段に高く認められます。
また、「変形視」というものもあります。「地面が波打って見える」「家が傾いている」「ドアが歪んで見える」など、物体が変形して見える現象です。いわゆる、近代絵画である、ピカソやダリなどの“キュビズム”で描かれているような人や物の像といえばわかりやすいと思います。

また、幻視は妄想に発展することもたびたび認められます。アルツハイマー病では、嫁やヘルパーにお金を盗まれたといった被害妄想・物盗られ妄想がたびたびみられます。この現象は、財布をどこかにしまい忘れたり、お金を使ったことを覚えていない記憶障害から生じるものですが、レビー小体型認知症では幻視に伴って、あるいは幻視が発展して起こることがほとんどです。たとえば、家の中に野良猫が見えていて「食卓のおかずを盗っていった」と信じたり、家に知らない人が入り込みその人を「泥棒」と信じ毎回警察に通報して警官がやってくるといった例も少なくはありません。
最近も、病棟に入院しているレビー小体型認知症の人が、「ベットから火が出ている」といって119番通報を病院の公衆電話から2回続けてかけた例を経験しました。

家での幻視が現れたときの対処ですが、まず最も重要なことは、幻視は本人にとってはとても“まぼろし”とは思えないほどリアリティ、真実味があって、活き活きして見えているということを充分介護者が理解して、受け入れておくことです。
つい「そんなのはいない」「何もみえませんよ」「そんなことはありえない」などと言いたくなりますが、強く否定したり、感情的に対応すると、本人が混乱したり興奮が高まったりしてますます幻視を増長させたり、妄想へと発展させたりすることがあります。また、抑うつ症状を悪化させたりする事もあります。
このレビー小体型認知症の幻視は、いわゆる統合失調症の幻視とはまったく異なり、その幻視が、見えている人に“何かをするとか、何かをさせる”とかといった「危害的行動」をとらない・とらせない類のものである、という認識がとても大切です。

対応の仕方として、たとえば「本当はいないのだけれどもね。でもあなたには見えるのだから仕方がありませんね」「そういう病気だから、見えるのは仕方がないですよ」「確かにいるけど、悪さはしないから大丈夫」などと伝え、大抵の幻視は、近づいたり、触ったりすると消えてしまうので「(介護者と一緒に)近づく」「(一緒に)触る(まねをする)」ように本人に促すといったことも一つの手です。

なお、介護者は、どんなパターンで幻視が出てくるのか把握しておくと、脱水・熱中症・風邪・感染症(肺炎・尿路感染など)・便秘・腸閉塞などの身体的変化があると、その頻度が急に頻繁に現れるようになるので、それが“身体の不調を知らせるサイン”であることが多く、その際、医療機関を早急に受診する必要があると理解して介護をすすめていくとよいと思います。

いずれにせよ、幻覚・妄想は、本人の生活の質に悪影響を及ぼすとともに、介護にも支障をきたし、さらには社会的問題にも波及しかねないので、おかしいと思ったら早い段階での認知症専門医(レビー小体型認知症に精通した)の受診が大切です。今は、レビー小体型認知症と診断できたら、内服調整で充分ご本人、ご家族ともに満足いく加療が可能です。

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