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レビー小体型認知症

この病気は、日本人の小阪憲司が1976年以降の一連の研究報告によって見つけられた病気です。
Dementia with Lewy bodiesといい、略してDLBと呼ばれています。

レビー小体型認知症は、アルツハイマー病、血管性認知症とともに“三大認知症”といわれアルツハイマー病についで多いとされています。
現在、わが国のレビー小体型認知症の人は、約60万人以上いると推定されています。65歳以上の高齢者に多くみられますが、40~50歳代も少なくありません。また、アルツハイマー病と比較して男性に多い傾向があります(男:女=2:1)。

レビー小体型認知症の脳に、「レビー小体」という特殊な円形物質(細胞内封入体)が、中枢神経系を中心に多数認められます(なお、レビー小体は、1912年ドイツの病理学者フレデリック・レビーにより発見されたものです)。

レビー小体型認知症は、記憶障害や理解力・判断力の低下をきたします。ただし、病初期から中期にかけては、記憶障害はあまり目立たず、幻視・認知の変動・意識の変容・パーキンソン症状(動作緩慢・筋強剛・姿勢反射障害など)・レム睡眠行動障害・抑うつ・自律神経症状・失神など、特徴的な症状がさまざまに出現します。また、注意しなければいけない薬の過敏性、いわゆる被刺激性が高く、副作用がすぐに出やすいことも、大きな特徴の一つです。その意味で、アルツハイマー病とは異なり、逆に不適切な投薬投与量で病状が悪化することから、この病気の診断につながるケースをよく経験します。

1.レビー小体認知症の家庭での簡易チェック

もし、当てはまるようでしたら当院神経内科;認知症外来を受診されてください。

 

レビー小体認知症チェックリスト

  • 物忘れがある。
  • 頭がはっきりしている時と、そうでないと時の差が激しい。よくボーッとしている時が多い。
  • 実際にはないものが見える(幻視;人や動物・虫など)。
  • 妄想がみられる。
  • 動作が緩慢になった。
  • 筋肉がこわばる。硬くなる。表情が乏しくなった、喜怒哀楽が減った。
  • すり足、小股で歩行する。
  • 睡眠時に、怖い夢をよく見たり、大声をたてたり、あるいは寝ぼけて起き出し、異常行動をとる。
  • 転倒や失神を繰り返す。

※5個以上該当すれば、レビー小体型認知症の可能性あり(小阪のチェックリスト:改変)。

 

また、上記に加え、初期の症状としてうつ傾向を呈することが多く、一点を見つめて固まっていて、人が体を触れたりゆすったりする刺激で我にもどる。あるいは、ちょっとしたこと、ほんのささいなことで突然烈火のごとく怒り出し、その際、暴力(叩いたり)することもある。しばらくすると何事もなかったように穏やかになる。こういったことがあれば、さらに疑わしくなります。

下記に、2005年にNeurology誌上に公表された、レビー小体型認知症の診断基準をあげます。

 

レビー小体型認知症(DLB)の臨床診断基準改訂版(第3回DLB国際ワークショップ)
(1)中心的特徴(DLBほぼ確実probableあるいは疑いpossibleの診断に必要)

正常な社会および職業活動を妨げる進行性の認知機能低下として定義される認知症。
顕著で持続的な記憶障害は病初期には必ずしも起こらない場合があるが、通常、進行すると明らかになる。

(2)中核的特徴(2つを満たせばDLBほぼ確実、1つではDLB疑い)

a.注意や覚醒レベルの顕著な変動を伴う動揺性の認知機能
b.典型的には具体的で詳細な内容の、繰り返し出現する幻視
c.自然発生の(誘因のない)パーキンソニズム

(3)示唆的特徴(中核的特徴1つ以上に加え示唆的特徴1つ以上が存在する場合、DLBほぼ確実。中核的特徴がないが示唆的特徴が1つ以上あればDLB疑いとする。示唆的特徴のみではDLBほぼ確実とは判断できない)

a.レム期睡眠行動異常症(RBD)
b.顕著な抗精神病薬に対する感受性
c.SPECTあるいはPETイメージングによって示される大脳基底核におけるドパミントランスポーター取り込み低下

(4)支持的特徴(通常存在するが診断的特異性は証明されていない)

a.繰り返す転倒・失神
b.一過性で原因不明の意識障害
c.高度の自律神経障害(起立性低血圧、尿失禁等)
d.幻視以外の幻覚
e.系統化された妄想
f.うつ症状
g.CT/MRIで内側側頭葉が比較的保たれる
h.脳血流SPECT/PETで後頭葉に目立つ取り込み低下
i.MIBG心筋シンチグラフィで取り込み低下
j.脳派で除波化および側頭葉の一過性鋭波

(5)DLBの診断を支持しない特徴

a.局在性神経徴候や脳画像上明らかな脳血管障害の存在
b.臨床像の一部あるいは全体を説明できる他の身体的あるいは脳疾患の存在
c.高度の認知症の段階になって初めてパーキンソニズムが出現する場合

(6)症状の時間的経過

(パーキンソニズムが存在する場合)パーキンソニズム発症前あるいは同時に認知症が生じている場合、DLBと診断する。認知症を伴うParkinson病(PDD)という用語は、確固たるPDDの経過中に認知症を生じた場合に用いられる。実用的には、臨床的に最も適切な用語が用いられるべきであり、レビー小体病のような包括的用語がしばしば有用である。DLBとPDD間の鑑別が必要な研究では、認知症の発症がパーキンソニズムの発症後の1年以内の場合をDLBとする“1年ルール”を用いることが推奨される。それ以外の期間を採用した場合、データの蓄積や比較に混乱を生じることが予想される。臨床病理学的研究や臨床試験を含む、それ以外の研究の場合は、DLBとPDDの両者は、レビー小体病あるいはαシヌクレイン異常症のようなカテゴリーによって総合的に捉えることが可能である。

[McKeith IG,Dickson DW,Lowe J,et al;Consortium on DLB.Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies:third report of the DLB Consortium.Neurology.2005;65(12):1863-1872.]

 

2.画像診断

CTやMRIでは、典型的なレビー小体型認知症は、脳萎縮は目立たず、したがって年齢相応と判断されたり、他の変化;脳虚血性変化を優位にとり、そのためと説明されたり、あるいは“こころの病;老年性精神病など”といわれたりすることがあります。

レビー小体型認知症でみられる脳の特徴は、後頭葉に血流の低下がみられ、これらはSPECT/PETといった核医学検査によって確認されます。ただし、この画像所見がみられるのは約60%といわれています。また、レビー小体型認知症は脳の病気にかかわらず心臓に変化がみられることも特徴です。具体的には、MIBG心筋シンチグラフィーという核医学検査を行うと心臓でのMIBGの取り込みが低下していることがわかっています。なお、このMIBG心筋シンチグラフィーの心臓の所見を発見したのは、関東中央病院神経内科の織茂先生で、診断基準の支持的特徴の項目に入れられています。

しかし、これらの核医学検査は施行できる施設も限られています。また基本的には、詳細な病歴の聴取と臨床所見と治療投薬による症状の推移で、診断治療できる病気であるといえます。

3.レビー小体型認知症とパーキンソン病とアルツハイマー病

レビー小体型認知症は、大脳皮質を中心に中枢神経系から交感神経系にいたるまで広範にレビー小体がたまっていく病気ですが、パーキンソン病ではレビー小体が脳幹(黒質)を中心に現れます。
いずれの病気も、レビー小体が必ず存在することから、レビー小体型認知症とパーキンソン病は、本質的には同じ病気と考えられ、これらをあわせてレビー小体病と呼んでいます。

現在、パーキンソン病から認知症が経過中加わってくる率は、70~80%と考えられさらにすべてではありませんが、程度の差こそあれ、その中の何十%かが、レビー小体型認知症に移行すると思われます。

また、レビー小体型認知症はアルツハイマー病の病理所見が一緒に起こることがわかっています。そのためアルツハイマー病の病変がない純粋なレビー小体型認知症は「純粋型」。脳の中にアルツハイマー病の病変がある場合は、「通常型」と分けられることができます。
純粋型は、発症年齢が40歳ぐらいからで初発症状はパーキンソン症状。通常型は、70歳ぐらいで物忘れ症状から発症してきます。
このアルツハイマー病の病理所見が併発しているかどうかで、記憶障害が初発症状の有無にかかわってきます。

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