認知症の治療
レビー小体型認知症は、多彩な症状を呈する病気です。そのため治癒したい、あるいは軽減・緩和させたい症状に優先順位をつけて薬の処方を行うのがベストです。先に、レビー小体型認知症における薬剤過敏性について述べましたが、それは“ある意味、諸刃の矢”でもあります。すなわち、少量の薬が悪影響をもたらすということは、逆に劇的に効果を上げるという場合もあるということです。いずれにしても、レビー小体型認知症の内服治療は、医師の“投薬の妙”つまり“さじ加減”にかかっています。この投薬いかんで、症状が劇的に改善することを、多くのレビー小体型認知症の方々の治療で経験し学んでいます。
認知症薬
1)コリンエステラーゼ阻害薬
ドネぺジル塩酸塩
我が国で唯一の認知症薬として長らく用いられてきた「アリセプト」は、日本のエーザイが世界で初めて開発した抗認知症薬です。
この薬は、3mg・5mg・10mgの3種類あり医療保険の適用はアルツハイマー病にのみ処方することができる薬です。しかし、実際の医療現場では家族の説明と同意のもとにレビー小体型認知症に用いられています。この薬は、投与量の調節でアルツハイマー病以上に効果を示すことが知られています。この病気を見つけた小阪先生は、「ファーストチョイス」(第一選択薬)にあげています。
アルツハイマー病に用いる場合は、3㎎から開始し5mgへ容量をあげますが、前記でも述べたようにこの薬のも過敏性があり、レビー小体型認知症で投与する場合は、極少量;0.5mg(細粒を使用)~0.75mg(細粒ないし3mg錠剤1/4分割を使用)から開始します。多くのレビー小体型認知症の人(アルツハイマー病の病理所見があっても少ないと思われる人)では改善度も早く、ほとんどこの量で維持できますが、レビー小体型認知症にアルツハイマー病の病理所見の合併の度合いが多いと思われる症例は、効果発現が遅いことが多く、やや用量を増やしながら経過を慎重に診ていき必要に応じ他の薬を併用していきます。
リバスチグミン
2011年7月に本邦発売となった新しい抗認知症薬で、パッチ薬です。この薬も医療保険の適応は、アルツハイマー病だけです。海外の報告では、周辺症状の改善をみています。
この薬の良い点は、内服するのを嫌がる患者さんに貼ることで、うまく使用できることです。この薬も、用量は低用量でコントロールします。今までの経験では2.25mg(最少用量4.5mgパッチを1/2に切って貼布)~4.5mgで効果的のようです。また消化器症状などの副作用が、他の抗認知症薬よりも少ない印象です。
ガランタミン
2011年3月に本邦発売になった抗認知症薬です。この薬も、アルツハイマー病のみの適用です。海外の報告では、幻覚や臨床全般評価、認知機能、睡眠障害の改善効果が報告されていて、他の抗認知症薬よりは成績が良いようですが、日本での評価はこれからと思います。 使用経験では、やはり極少量投与;1mg(最少用量4mg錠の1/4分割) ~2mg(4mg錠1/2分割)。
2)NMDA受容体拮抗薬
メマンチン
2011年6月に本邦発売になった抗認知症薬です。この薬は、中等度~高度のアルツハイマー病に適応があり、作用機序が違うため、他のコリンエステラーゼ阻害薬との併用が可能となっています。 海外では、認知機能および臨床全般印象度の改善が報告されています。 私は、レビー小体型認知症の人への初めからの投与経験はありません。
レビー小体型認知症なのにアルツハイマー病という診断をされて、この薬を投薬され症状が悪くなった方を担当し、過敏性と判断し減量・中止(washout)し、ドネぺジル少量開始で落ち着いた方を最近経験しました。
海外では、BPSDに対する効果は報告されているので、投与量の微調節は今後に期待されます。
漢方薬
抑肝散
もともと子供の夜泣きや疳の虫など、あるいは成人の不眠症に古来から用いられていましたが、不眠症や神経症などに使われてきました。2005年に東北大学のグループが認知症に効果を上げたという報告を行い注目されました。以降、臨床の場で認知症における幻覚・妄想や易興奮・暴力などの精神症状に対する効果が広く知られ、服用する人が急増しています。とりわけ最近では、幻視や妄想がみられるレビー小体型認知症の人に使用される事が多くなっています。認知の変動やレム睡眠行動障害に対しても効きめも現すことがあります。
作用メカニズムは、充分ではありませんが、1.脳内の興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の放出を抑える、2.グルタミン酸の過剰状態を制御するグルタミン酸とトランスポーターを刺激する、3.セロトニン系を抑える、といわれています。効果は、1・2~4週間前後で現れます。漢方薬は比較的副作用は、少ないですが高齢者が多いため、偽性アルドステロン症で低カリウム血症による脱力、浮腫等を招くことがあるので要注意です。また、難点と言えば、漢方薬であるため、量が多く、苦味があり飲みにくい点があります。しかし、美味しく飲めるという方は、多くの効果が望めることが多いようです。
国内で発売されている認知症薬
一般名 | ドネペジル | ガランタミン | リバスチグミン | メマンチン | |
商品名 | アリセプト | レミニール | イクセロン | リバスタッチ | メマリー |
製造・販売 | エーザイ(株) ファイザー(株) |
ヤンセンファーマ(株) 武田薬品工業(株) |
ノバルティスファーマ(株) | 小野薬品工業(株) | 第一三共(株) |
適応 | アルツハイマー型認知症の軽度~重度 | アルツハイマー型認知症の軽度~中度 | アルツハイマー型認知症の中度~重度 | ||
作用 | コリンエステラーゼ阻害薬 | NMDA受容体拮抗薬 | |||
併用の可否 | メマリーとの併用可。他とは不可 | 他との併用可 | |||
副作用 | 吐き気・嘔吐・食欲不振・下痢 | 吐き気・嘔吐・食欲不振 | 皮膚のかぶれ・吐き気・嘔吐 | 頭痛・めまい・便秘・体重減少 | |
海外承認年 | 1996年 | 2000年 | 2000年 | 2002年 | |
国内発売年月 | 1999年11月 | 2011年3月 | 2011年7月 | 2011年6月 | |
備考 | 3mgおよび5mgはジェネリックあり[10mgはアリセプトのみ]。 | アリセプトに比べ、長期的な効果が期待できるとされる。 | パッチ薬は国内初。標準サイズは500円玉大。日付を書くこともでき、薬剤の使用状況を確認しやすい。 | アリセプトと併用すると、現在3年ほど遅延できる進行を5年まで引き延ばせるといわれている。 |
レビー小体型認知症に用いられる主な薬
症状 | 一般名 | 主な商品名 | 種別 |
認知障害 | ドネペジル | アリセプト | 認知症薬 |
ガランタミン | レミニール | 認知症薬 | |
リバスチグミン | イクセロン/リバスタッチ | 認知症薬 | |
メマンチン | メマリー | 認知症薬 | |
幻視・妄想 | 抑肝散 | 抑肝散 | 漢方薬 |
クエチアピン | セロクエル | 非定型抗精神病薬 | |
ペロスピロン | ルーラン | 非定型抗精神病薬 | |
オランザピン | ジプレキサ | 非定型抗精神病薬 | |
リスペリドン | リスパダール | 非定型抗精神病薬 | |
アリピプラゾール | エビリファイ | 非定型抗精神病薬 | |
パーキンソン病 | レボドパ | メネシット/マドパー/ネオドパストン | レボドパ含有薬 |
エンタカポン | コムタン | 酵素阻害薬 | |
セレギリン | エフピー | 酵素阻害薬 | |
ゾニサミド | トレリーフ | レボドパ賦活薬 | |
ロピニロール | レキップ | ドパミンアゴニスト | |
プラミペキソール | ビ・シフロール | ドパミンアゴニスト | |
ペルゴリドメシル | ペルマックス | ドパミンアゴニスト | |
ドロキシドパ | ドプス | ノルアドレナリン補充薬 | |
うつ | フルボキサミン | デプロメール/ルボックス | SSRI |
パロキセチン | バキシル | SSRI | |
セルトラリン | ジェイゾロフト | SSRI | |
ミルナシプラン | トレドミン | SNRI | |
ミルタザピン | レメロン/リフレックス | NaSSA | |
トラゾドン | デジレル/レスリン | SARI | |
不安 | エチゾラム※ | デパス | 抗不安薬 |
ロラゼパム※ | ワイパックス | 抗不安薬 | |
レム睡眠行動障害 | クロナゼパム | リボトリール/ランドセン | 抗てんかん薬 |
ラメルテオン | ロゼレム | メラトニン受容体刺激薬 | |
不眠 | ブロチゾラム | レンドルミン | 睡眠導入薬 |
ゾピクロン | アモバン | 睡眠導入薬 | |
リルマザホン | リスミー | 睡眠導入薬 | |
ゾルピデム | マイスリー | 睡眠導入薬 | |
エスゾピクロン | ルネスタ | 睡眠導入薬 | |
起立性低血圧 | ミドドリン | メトリジン | 血管収縮薬 |
ジヒドロエルゴタミンメシル | ジヒデルゴット | 血管収縮薬 | |
頻尿 | コハク酸ソリフェナシン | ベシケア | 抗過活動膀胱薬 |
酒石酸トルテロジン | デトルシトール | 抗過活動膀胱薬 |
※抗不安薬については使用を控えることが望ましい。